ヴァイオリニスト・渡邊紗蘭 -聴く者の心震わす音のルーツとは-

「よろしくお願いします。」と和やかな笑顔で我々のインタビューに応じてくれたのは、第91回日本音楽コンクール・バイオリン部門で第1位を獲得した渡邊紗蘭(東京音楽大学付属高等学校3年)さんだ。そんな彼女に、曲と向き合うことで大切なことや自身がもつ音楽感について伺った。

「憧れのベルリンフィルのサウンドに向けて走り続ける毎日」

ー渡邊さんが大切にしている音楽感について教えてください。
渡) ベルリンフィル(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)が大好きで、特にコンサートマスターの樫本大進さんを目標にしています。樫本さんはソロはもちろん、オーケストラの演奏も室内楽の演奏もすごくて…毎日欠かさず音源を聴いています。私もソロ、室内楽、オーケストラ全てできるような演奏家を目指しています。


毎日必ず聴くほどベルリンフィルが大好きな渡邊さん。
ベルリンフィルを聴き始めるきっかけとなったのは渡邊さんのお母様の影響があったそうだ。


渡)母にYouTubeで音源をきかせてもらったのがベルリンフィルとの出会いだと思います。そこからどんどん彼らの演奏を聞くようになって…しまいにはベルリンフィル専用のアプリを入れるほど惚れ込んでいました。


ベルリンフィルの演奏の中でも特に影響をうけた作品は、3年前の日本公演でも演奏された「ブルックナーの交響曲第8番第4楽章」だそうだ。私も実際に音源をきいてみたらただの録音のはずなのにまるで目の前にいるかのような迫力があった。

「1つの曲と向き合うことについて」

ー渡邊さんが曲に向き合う上でたいせつにしていることはなんですか?

渡)どんな作品であれ、その曲の基本的な情報はおさえるようにしています。その作曲家がどこで生まれ、どんな人で、どんな人生を歩んだのか…などですかね。また、今回のコンクールではオーケストラとの共演だったので楽譜をしっかり読んで、どの楽器と同時に演奏するのかなどを自分でもしっかりやったなと思うくらい勉強しました。


ー現在演奏されている曲のほとんどは既に作曲家が亡くなっていると思います。そんな作品を解釈する時に意識していることがあれば教えてください。

渡)今回のコンクールであれば本選でバルトークの協奏曲を弾いたんですけど、バルトークってベラ・バルトークじゃないですか。なので本番では”サラ・バルトーク”になったつもりで演奏しました(笑)
とにかく、本選なんて上手い人たちしか残っていないのだから、私のバルトークを最後まで弾き切ろうという思いが強かったです。

「毎日の練習について」

ー普段どのような練習をしていますか?

渡)……特に意識はしていません…。(笑)
でも、朝学校に行く前に必ず弾く!ということは続けています。


練習時間をたくさん取ることで安心してしまい意味のある練習になっていないということもありますが、そこで渡邊さんにも練習時間や意味のある練習にするために意識していることを伺った。


渡)練習時間は…特に気にしていません。やる気がない時に無理にやったって意味無いので、そういう時は他の事をやっています。寮生活なので自由に時間配分をしてやっています。意味のある練習にするために寝る前や朝起きたとき、「これだけは必ずやろう!」というものを決めています。練習しなければならない曲も多いし…。時期によって通し練習をした方がいいのか、深めていく作業をするのか決めています。

「夢を追いかけて-兵庫から東京へ-」

ー渡邊さんの人生の中で最も大きかった選択はなんでしたか?

渡)上京したことです。上京したばかりの時はやっぱり不安でした。ですが、この学校の素晴らしい先生方や環境に恵まれ1人でも頑張ってくることができました。今回のように結果がついてくると3年間1人で頑張ってきてよかったなぁと思いますし、上京を許可してくれた両親にとても感謝しています。


ー兵庫県のおすすめの食べ物などはありますか?

渡)明石焼きです!
ダシが効いていてとても美味しいです!


兵庫県では多くのお店で明石焼きが取り扱われているようだ。ぜひ食べてみたいなぁと思った。

「コンクールに挑むことで得たこと」

ーコンクール前と後で変化したことなどはありますか?

渡)気持ちが楽になりました。コンクールまで時間がなくなってくると緊張でご飯が食べられなくなったり、寝られなくなってしまったりと…。それがやっと落ち着いてほっとしています。


ーコンクールでいい演奏ができるように行っているルーティーンなどはありますか?

渡)ルーティーンと言えるかわかりませんが
本番1週間前からインスタやLINEは見ていませんでした。開きかけてしまう時もありましたが「今は見る時じゃない」と自制していました。

「渡邊紗蘭とヴァイオリン」

ー最後の質問になりますが、渡邊さんにとってヴァイオリンとはどんな存在ですか?

渡)ヴァイオリンは自分のことを1番よく分かってくれる存在だと思っています。
だから、例え辛いことがあってもヴァイオリンを弾けばヴァイオリンがその辛い気持ちをわかってくれる気がして…私の1番の理解者なのかもしれません!


ーありがとうございました。これからの活躍も期待しています。

渡)ありがとうございました。


17歳の若きヴァイオリニストが語ってくれた音楽感やヴァイオリンに対する思いは、今音楽を学んでいる我が校の生徒だけでなく多くの人の心に響く言葉である。

彼女のヴァイオリンの音がなぜ聴く者の心を震わせるのか…それは、1つ1つの作品に対し真摯に向き合う姿勢や憧れのベルリンフィルに向けて毎日努力を続けているところ、そしてヴァイオリンを自らの理解者と例えるぐらいヴァイオリンを愛しているからだろう。

これからも彼女はヴァイオリンと共に歩み続けて行くだろう。そんな彼女のこれからの活躍に目が離せない。

インタヴューと記事作成を行った、本校プロモーションリーダーズ(小野未結/肥沼康一郎)
インタヴューと記事作成を行った、本校プロモーションリーダーズ(小野未結/肥沼康一郎)